最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)2746号 判決 1952年12月09日
本籍
宮崎県東諸県郡八代村大字深年六三一八番地の一
住居
宮崎市仲町一二番地
日稼
吉野重吉
明治三九年三月七日生
右保護者幼者遺棄致死被告事件について昭和二六年六月一九日福岡高等裁判所宮崎支部の言渡した判決に対し被告人から上告の申出があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
被告本人の上告趣意及び弁護人岡村玄治の上告趣意は後記書面のとおりである。
被告本人の上告趣意は原判決の事実認定を争うのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
弁護人岡村玄治の上告趣意(一)の論旨は、原判決の判例違反を主張するのであるが、その引用にかかる各判例によつても、所論のように、刑法二一八条一項後段の罪の成立するためには、常に必ず事実上保護することが可能であるにかかわらず保護しなかつたことを必要とする趣旨と解することはできない。従つて右各判例は本件の場合に適切とはいえない。のみならず所論は、原判決に事実認定と異なる独自の推認に基くものであつて、結局事実誤認を主張するに帰し、いずれにしても理由がない。同(二)において所論の引用する大審院判決は、緊急避難行為者が刑事責任を免れても損害を蒙つた他人に対する民事上の賠償責任を負担するという趣旨であつて、所論についても適切でないばかりでなく、結局本件を目して緊急避難であるという独自の見解に立つて原判決の事実誤認を主張し、延いて量刑不当に及んでいるのであるから、論旨はとることはできない。
その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四〇八条、一八一条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 木村善太郎)